近年、企業は自社だけでなく取引先や外部委託先も含めたサプライチェーン全体でセキュリティリスクに直面しています。
情報漏洩や業務停止は信頼を損なう大きな要因となるため、供給網全体を対象にしたセキュリティ対策が欠かせません。本記事では、その重要性と具体的な対策の流れを解説します。
サプライチェーンのセキュリティ対策が重要な理由とは

近年、サプライチェーン全体におけるセキュリティ対策の重要性が高まっています。まずはその理由を見ていきましょう。
情報漏洩を防ぎ、情報資産を守るため
企業は、顧客情報や取引先データなど多様な情報資産を扱っており、漏洩すれば法的問題や損害につながります。特に外部委託先や取引先の対策不足は、自社への波及リスクを高めます。
「外部委託先のコールセンターが誤って顧客一覧を添付し、別企業に送信した」といった単純ミスでも、大規模な漏洩と賠償に発展します。USB持ち出しや私用クラウドへの保存も同様にリスクです。
このような理由から、サプライチェーン全体に統一的なセキュリティ基準を設けることが重要です。
業務を安定して継続させるため
サプライチェーンの一部が攻撃を受けると、業務停止や収益減少など全体に深刻な影響が及びます。取引先での情報漏洩が瞬時に広がる事例もあり、連鎖的に信用を損なう可能性があります。
仮に一次サプライヤーの受注システムが止まった場合、部材が届かず製造ラインの停止やEC在庫の欠品が生じやすくなります。
そこで、業務継続計画(BCP)の策定や復旧手順の明確化を通じ、業務を安定して継続できるよう体制を整えることが求められます。
企業イメージを下げないようにするため
情報漏洩やサイバー攻撃はSNSやメディアを通じて瞬時に拡散します。このような情報は企業の評判に直結し、イメージを大きく損ないかねません。
「顧客情報○万件流出」などの見出しはSNSで瞬時に拡散し、採用応募の減少や解約増に直結します。特に、若い世代は企業の社会的責任や安全性を重視するため、セキュリティ意識の低い企業には魅力を感じにくくなるでしょう。
従業員からの信用を損なわないようにするため
従業員は企業の重要な資産であり、安心して働ける環境を提供することは経営の基盤とも言えるでしょう。勤怠・人事データが誰でも見える共有フォルダに置かれていただけでも、心理的安全性は損なわれます。
セキュリティが脆弱だと個人情報や業務データへの不安が高まり、モチベーションや忠誠心が低下する恐れがあります。企業は従業員にも教育やトレーニングを実施し、セキュリティ文化を共有することが大切です。
サプライチェーンへの攻撃はどのようなものがあるか

サプライチェーンに対する攻撃は多様化しており、企業にとって深刻な脅威となっています。ここでは、代表的な攻撃の種類とその特徴を解説します。
特定の企業に対し、長期にわたり標的型攻撃を仕掛ける
標的型攻撃は、特定の企業や取引先を狙い、長期間にわたり綿密に仕掛けられるサイバー攻撃です。攻撃者は従業員の行動や業務プロセスを調べ、最も侵入しやすい経路を突き止めます。
目的は機密情報や顧客データの窃取であり、成功すれば業務停止や信用失墜を招きます。一般的なマルウェアよりも発見が難しい点にも注意が必要です。
ウイルスファイルやリンクをクリックさせる
この攻撃手法は、フィッシングメールや偽サイトを利用し、従業員にウイルス付きファイルの開封や不正リンクのクリックを誘う手口です。特に取引先を装ったメールは信頼されやすく、従業員が警戒せずに反応してしまうケースが多くあります。
侵入を許せばネットワークが乗っ取られ、情報漏洩や業務停止につながります。
従業員に内部不正行為をさせる
内部不正は、従業員が自ら情報を漏洩したり、外部から脅迫や金銭的誘惑を受けて攻撃に加担したりする行為です。信頼できる社内の人間が関与するため発覚が遅れ、被害が深刻化しやすいのが特徴です。
内部通報制度の整備や従業員教育を通じて、不正行為のリスクを認識させることが大切です。
ソフトウェアのアップデートファイルなどにマルウェアを仕込む
この攻撃手法は、正規のソフトウェア更新に見せかけてマルウェアを混入させるものです。企業は無防備にアップデートを適用してしまい、機密情報の流出やシステム停止といった深刻な被害を受ける恐れがあります。
有名な事例として、ソフトウェア更新を通じて世界規模で被害を広げたケースも報告されています。
サプライチェーンでのセキュリティ対策の流れとは

サプライチェーンにおけるセキュリティ対策は、単なる防御策としてではなく、継続的なプロセスとして取り組むことが重要です。現状把握から計画、実行、モニタリングまで段階的に進めることで、全体の防御力を高められます。以下に基本的な流れを整理します。
対策要件を明確にしておく
まずは、セキュリティ対策の要件を整理します。情報資産や重要業務を洗い出し、どの部分が特に脆弱なのかを確認しましょう。
また、取引先や委託先と共通の基準を設け、文書化して共有することで、全社的な理解と一貫性を確保できます。
「機密情報=見積書・顧客名簿・設計図」のように具体リスト化し、アクセス権を表で決めてから、取引先にも同じ区分を共有します。
現状分析を行う
次のステップは現状のリスクを分析することです。まず社内システムやデータを棚卸しし、重要度や機密性を評価します。加えて、取引先との関係も含めてサプライチェーン全体を点検し、過去のインシデント事例から弱点を把握しましょう。
さらに従業員の意識や教育状況も確認し、適切な行動を取れる体制を整えることが大切です。
対策場所と方法を考える
リスクの所在を特定したら、どこにどのような対策を講じるかを決めます。自社内部だけでなく、外部委託先や取引先との接点も検討の対象となるでしょう。
外部との受け渡し点は、下記のように接点ごとに「やる」「やらない」を簡単な運用ルールに落とします。
- ・発注書→必ず暗号化ZIP+別送パス など
- ・メール添付→NG
- ・共有リンク→期限付き
技術的にはファイアウォールや侵入検知システム、データ暗号化などが考えられます。
セキュリティ対策を実行する
実行段階では、従業員への教育やトレーニングを行い、セキュリティ意識を高めることが必要です。「毎月3分のミニ学習」「年2回のフィッシング訓練」のように、短時間×高頻度を基本にすると現場に負担なく定着します。
さらに、サプライチェーン全体での協力も不可欠です。取引先や外部委託先と連携し、共通のセキュリティ基準を設けることで、サプライチェーン全体が一体となってリスクに立ち向かうことが重要です。
運用後もモニタリングを行う
対策は導入して終わりではなく、継続的な監視が不可欠です。ログ分析やネットワーク監視、異常検知システムで異常を早期に発見し、迅速に対応します。また従業員のフィードバックを取り入れることで、現場に即した改善も可能です。
モニタリングの結果は定期的な見直しに活かし、進化する脅威に合わせて対策を更新しましょう。
まとめ
サプライチェーンのセキュリティ対策は、現代のビジネス環境においてますます重要性を増しています。
企業は自社の情報資産を守るだけでなく、取引先や外部委託先との関係を維持するためにも、包括的なセキュリティ対策を講じる必要があります。常に最新の情報を取り入れながら、安心して業務を行える環境を整えていきましょう。